樋渡 賢 

Interview

Ken Hiwatashi

Mar, 2023

Interview


蒔絵手帖 9

「飛燕蒔絵杯」


地模様は、金の梨地に丸粉をぼかし蒔きしています。燕が飛んでいる時期の湿度の高い雰囲気、晴れでもなく曇りでもなく、春霞のような微妙な空気感を表現したいなと思って、ぼかし蒔きという金粉の粒子の違いで表してみました。


空中で翻った時に見える燕のお腹の白いところって、なんとも奇麗ですよね。そこを強調するために、高蒔絵の肉取りに。盃なので、どの方向から見ても翻って見える構図を考えて、燕を高蒔絵で描いています。




この高蒔絵と背景の金地というのは、かなり高級な部類の蒔絵になります。蒔絵の技法として、だいたいこういう技法は抹茶入れとか手箱、硯箱などに施されます。昔は超高級品として使われるような技法なんですけれど、それをわりと身近なこういった小さな盃に使っている、実は普段でも使えるというのが贅沢な感じです。




今の季節、燕を見ていると常に翻っているじゃないですか。この器の内側、いちばん曲面のきつい部分に燕を描くと、もうどの角度から見ても、燕は翻っているように見えるんです。それはデザインする時に、直接この器物に胡粉とかで当たりを付けてみると、どの角度で見てもそう見える構図というか、ここに絵付けするといいなと、まず思う位置なんですね。鳥なので、飛んでいる感じを出したいんです。虫を追って自在に翻ったり、いきなり急に角度を変えたり…。





外側や高台裏は、潤と黒です。潤と黒と金の対比というのは、大好きな対比なので、だいたい盃にはこの表現、色の切り返しというか、こういうのを使っていますね。


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