樋渡 賢 

Interview

Ken Hiwatashi

Dec, 2021

Interview


蒔絵手帖 6

箔絵杯「瑞雲」




お正月に使いたいという気持ちから、金箔のイメージでつくった箔絵杯です。高台を高くしているので、格調も高く見えます。

縁起の良い雲、珍しい雲といわれる瑞雲。雲の輪郭は、プラチナの箔を使っています。プラチナを使うと錆びないので、つねに白いキリッとした線が出るんですね。銀だと黒ずんだり、ちょっと輪郭がぼやける感じになって、それがいいという場合もありますけれど、これはちょっと初々しい感じというのを出したくて、輪郭はつねに白くと思いました。実際の雲にはくっきりした輪郭はないですけれど、下絵なしで即興で描いた新鮮な感じも出せたらなと。




輪郭の中は、金の砂子と言って、金箔を細かくしたものを蒔き付けています。金箔そのままだとペタッとなってしまうんですね。金箔を編み目がふるいになっている竹筒に入れると、細かくなって落ちてくるので、それを蒔き付けて、蒔絵の雰囲気や表情を出しています。

まず輪郭を漆で描いて、中を薄く地塗りと言って、均一に漆を塗ります。そのときに描割(かきわり)といって輪郭との間に隙間を空けるんですね。そうしないと輪郭がうまく出ないんです。均一に丁寧に、素早く漆を塗ってから、砂子を蒔き付けるという仕事です。




箔絵は、置目(おきめ)という下書きもしない一発描きで、掃除も出来ないんです。勢いというか、成り行き任せなところもある技法です。ふだん僕は研ぎ出し蒔絵とか高蒔絵とか、ちょっと高級な技術の作品が多いんですけれど、箔絵は研いだり、研ぎ出したり、高く盛り上げたりという技術は入っていなくて、絵を描くように描いて、箔を押すという割合シンプルな仕事です。使っていくうちに箔が取れたり、擦れたりして、そこで古色がつくというか、雰囲気が出てくるんですね。使い込んでいく、育てていく愉しさもあります。

蒔絵にはいろいろな技法があるので、こういう箔絵の表現も知っていただけたらと思います。




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