樋渡 賢 

Interview

Ken Hiwatashi

Oct, 2021

Interview


蒔絵手帖 4

蒔絵杯「晩秋」




「晩秋」というタイトルにもあるように、紅葉が美しい時というより、紅葉の終わり。何とも儚い、寂しいような雰囲気の中に、温かみも感じられる頃ですね。
木地も拭き漆にして、温かみを出しています。全面黒の漆にすると、温かみというより緊張感になっていきやすいので。




秋の終わりの落ち葉が積み重なったイメージを、「置き平目」という蒔絵の技法で表現しています。平目粉という細かな金粉を、一つ一つ置いていくんです。
これが本当に大変で…。もう一つ同じ物をつくってくださいと言われたら、嫌ですと言うくらい大変なんです(笑)

金粉は粒の大きさがいろいろありまして、厚みも微妙な違いがあります。粒が大きいと厚みがあって、小さいと厚みがありません。置き平目をしてからもう一度漆を塗って、乾いたら研ぎ出していきます。厚みのない粒は漆の表面から沈んでいるため、オレンジ色が強く出るんです。だんだん粒が厚くなるにつれて、粒の上にのっている漆も薄くなって透けてくるので、だんだんと黄色くなっていきます。
金粉の上に漆がどのくらい被っているか、その厚みで金色の見え方が変わってくるんですね。粒の大きさや置き方をある程度計算して、金粉だけで色のグラデーションを出しているんです。そこにこだわっています。

いまは朱色や緑色の顔料などいろいろありますけれど、色を何色も使うと、品の良さみたいなものがちょっと出なくなってくるんです。僕のイメージとしては、水墨画みたいな印象。限られた色の中で、どれだけ奥行きをつくっていくか。あえてこのような単色で表現しているというところはありますね。金粉の色だけなのに、見る人によって、それが金色にも見えるし、他の色にも見える。見る人のイメージに寄せられるんですかね。いくつもの色を使うと、それで説明できてしまいますが、単色ですと、見る人のそのときの心境によって、また作品も違って見えるのではないでしょうか。




器の形にも、うねりを持たせて、光の揺らぎを取り入れています。うねりに光が当たると変化が生じて、また見え方が違ってきます。イメージ的な器、抽象的な図案のときには、こういう形にしたくなるんです。
金と漆が描き出す、蒔絵ならではの奥行きを楽しんでいただければと思います。




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