蒔絵手帖 12
「蝶々蒔絵螺鈿杯」
この「蝶々蒔絵螺鈿杯」は、螺鈿の部分に白蝶貝を使ったり、場所によってアワビの青い部分を使ったりしています。
天目茶碗にも、こういう器の形はありますよね。
揺らぎのある器形なので、光の角度によって螺鈿の見え方や光り方が全然違うんですね。
季節の華やぎの中を舞う蝶々の姿を、こうした揺らいだ形ならば、螺鈿の良さとともに描けると思って作りました。
蝶々の部分は「高蒔絵」という技法で、レリーフのように肉取りを付けています。
器の外側は、置き平目にさらに丸粉の金粉を蒔いて、霞がかった雲のようなイメージを表現してみました。器の見込み側(内側)と外側では、ちょっと空気感を変えていて、そこも見どころのひとつです。
家の近辺では、蝶が1匹で飛んでいるというのはあまり見かけなくて、小さいシジミチョウとかは2匹だったり、3匹とか入り交じって飛んでいる感じなんですね。
その様子を3匹の蝶々で描いてみました。
小さい蝶々は、すごくきれいなんですよね。
もちろんアゲハチョウとかも大きくて優雅なんですけれど、小さいのもとてもきれいだなと思います。
飛んでいる時の動きは速いですから、速すぎて写生できないじゃないですか。
ザザザッと動き的なものはクロッキーみたいな感じで描きますけれど、やはりイメージですね。
たとえばツバメだと、よく羽が長く描かれますけれど、標本とかを見るとそこまで長くないんです。描く時に羽を少し長くしたり短くしたりという調整で、ツバメのように見せているんですね。
桜の花びらも、写実で描くと「これは何の花ですか?」ってなるけれど、花びらに切れ込みを描いてちょっと文様っぽくすると「桜ですね」って。
蝶々も同様に、観察している中からのイメージで描いています。
この作品を少し暗いところで眺めてみると、高蒔絵のちょっとした高さというのが強調されて、蝶の立体感を楽しめます。
実は毎回いろいろとやり方を変えているんです。金の研ぎ方とか、その磨き方とか。それによって雰囲気が全く違ってくるんですね。
蒔絵は技法のバリエーションが豊富なので、モチーフは更に無限にあるわけで、飽きない面白さがあると思って取り組んでいます。