座談会

酒とスイーツ

@ ギャルリ百草 / 多治見

2019.7.26 update

岐阜県多治見市にて「ギャルリ百草」を営む安藤雅信さんと明子さん。それぞれ陶作家、衣服作家でもあり、ギャラリーではさまざまなジャンルのつくり手による、生活に密着したものづくりを紹介し、日本人にとっての美術、文化を発信しています。茶道をはじめ中国茶との縁も深く、近年は“中国茶とお菓子”をテーマにした提案もされています。
雅信氏によると、もともと中国茶にはお菓子と合わせる趣向はなかったとか。日本の茶道が育んだお菓子文化を、中国茶にも生かしたいと、中国の茶人とともに取り組んでいるそうです。そこでフィラメントでは、日本酒についても何かお菓子との新しい試みをしていただきたいと依頼。今回、雅信氏が提案してくださったのは、ヴィーガンスイーツと日本酒のマッチングです。動物性の材料を用いないヴィーガンスイーツとお米から造られる日本酒。どちらも植物原料から成る物の取り合わせです。
ギャルリ百草にて“日本酒とスイーツ”の会を開いて、その様子を動画撮影させていただきました。お菓子づくりは「Organic Vegan Sweets」田中あづささんです。

写真:安藤雅信

安藤雅信(あんどうまさのぶ)

陶作家
ギャルリ百草主宰

和洋問わず使用できる千種類以上の日常食器と茶道具、また「結界シリーズ」など現代美術と焼き物を平衡して制作。海外にも発表の場が拡がっている。新しい茶の湯と中国茶を提案。

写真:安藤明子

安藤明子(あんどうあきこ)

衣服作家
ギャルリ百草主宰

結婚後自らの衣生活について考え始め、「古今東西の布を用いた年齢体型性別問わず、長く着られる定型の衣服」というコンセプトで、サロン(筒状のスカート)や上衣などを作り始める。

写真:田中あづさ

田中あづさ(たなか    )

Vegan pastry chef

アメリカ Seattleのveganレストランにてペイストリーシェフを勤めた後2002年に帰国。同年「Organic Vegan Sweets」を立ち上げる。白砂糖、卵、乳製品、動物性のものは一切使用せず、厳選したオーガニック食材を贅沢に使用したヴィーガン、マクロビオティックスタイルの身体に優しいお菓子を提案。

写真:小原康司

小原康司(こはらこうじ)

理容師

小原理容店・2代目店主。30歳の時に父を亡くし、多治見一多忙な理髪店の改革を決意。10年かけて一席のみ、一人客と丁寧に向き合うスタイルに変えてから40年。また、修行と称し、3000メートル級の山に登る。体重をかけて踏み込む、という心身の鍛錬は人生に通じ、一流の人や物事と出会い、探求を続ける。とくに珈琲、蕎麦、日本酒に見識が高い。ギャルリ百草では、カフェのオープン時に、珈琲の淹れ方を指南。安藤雅信氏にとって「心の師匠」でもある。

美味しく"のむ"こと

安藤雅信


日本酒とお菓子を合わせてみたい。そのきっかけをお話します。もともと日本の食生活全般に、この400年で培ってきた茶道文化というものが、一般家庭の奥深くまで浸透していると思っていまして。それは僕は焼き物をやっていて、海外に出て展覧会をしてよくわかったことですけれど、これほど焼き物をたくさん家庭で使っている国はないんですね。世界でいちばん日本がいろんな種類の焼き物を持っていて、料理によってさまざまな器を使いこなしています。それは、おそらく茶道の影響なんですね。日本は、食材の美味しさだけでなく、どうやって食べたら美味しそうに見えるか、ということを考える食文化です。食材を生かし、器を生かし、料理を愛でることに器を愛でることも含まれています。

飲み物を美味しく飲む。お茶でもお酒でも何でも、それには料理やお菓子が重要な役割を果たしていますよね。一般的に、お酒には辛い物が合うとか、中国茶にはお菓子はいらないとか言われることはありますが、そういう先入観ではなくて、これからの時代はどんどん実際に合わせてみたらいいと思うんです。新しい日本酒もできているわけですし、新しい中国茶もできている。それに合うお菓子とか、より美味しく飲めるようにするには、また違うお菓子の合わせ方とか出し方とかあるのではないかと。僕は中国、台湾の茶人とおつきあいしている中で、ほとんどお菓子はナッツとかドライフルーツが出されるだけなのが、ちょっと不満ではあったんですね。







日本の茶道文化ではお菓子というのはすごく重要な役割を担っていて、いかに美味しくお茶をいただくか、ということはその前に出るお菓子にかかっているわけです。せっかく日本がこれだけお菓子文化を重層化してきているので、その思想だったり技術を他にも生かせないかと。いまは中国茶にも新しいお菓子を取り合わせていまして、同様に「お酒とお菓子」というのもありではないかということで企画しました。今回は「Organic Vegan Sweets」の田中あづささんにお願いをして、日本酒に合うお菓子を考えていただきました。日本酒を使用してつくったスイーツや、仕上げに日本酒をかけて食べるスイーツもあります。日本酒は低精白(若駒 五百万石80)から大吟醸(天穏 純米大吟醸 山田錦)までいくつかのタイプの違う純米酒を用意して、それぞれのお菓子と日本酒を食べ合わせてみました。


…続きは、動画へ!(再生時間 約6分)


動画を再生

酒器について




日本人は直感的に、この飲み物にはこういう素材の器が合うというのを把握しています。繊細な味の物には磁器に透明釉とか、もう少し深みを味わいたい物には陶器を使うとか。そういう感覚が身についていて、自然にフッと手が伸びる器があると思います。

今回は味を繊細に感じたいということで、あえて磁器質に近い半磁器という焼き物で、かつ透明釉の艶のある釉薬の器を使用。微妙な日本酒の違いを感知できるよう、口縁も少し開いた形を選びました。口元が反っているか反っていないか、それによって日本酒を口の中に入れたときに、味蕾という味を感知するポイントにどれだけヒットするかが変わりますので、器の形状も関係してくるわけです。日本酒を注ぐ注器も、半磁器の片口を使っています。このように、その時々の趣向によって、器を試すのもまた面白いかなと思います。


veganスタイルのお菓子と日本酒

田中あづさ


もともとアルコールに弱く、お酒をいただくことはほとんどなかったのですが、昔からお酒のきいたお菓子は大好きです。二十年近く前に、身体の小さな不調がきっかけで、身体に負担の少ないveganスタイルのお菓子を作り始めましたが、そのころたいへんお世話になった方から素晴らしい日本酒を教えていただき、日本酒の美味しさに開眼しました。

ある日、製作したお菓子に純米酒を合わせてみたところ、とてもよく合うことに驚きました。お菓子には洋酒がたくさん使われていますが、なぜこんなに素晴らしい日本酒を使わないのだろうか? 日本の宝である日本酒をぜひお菓子に取り入れてみたいと思ったことが、今回も製作した純米酒ケーキ誕生のきっかけです。後味に強く影響しないveganのお菓子は、繊細な味わいの日本酒との相性がぴったりでした。

今回は他にも、我が家で日本酒と合わせて愉しむことの多いガナッシュショコラオランジェ、合わせると楽しそうだなあと思った焼き菓子、いつか作ってみたいと構想を描いていたveganアイスクリームとメレンゲ、日本酒を組み合わせたデザートをご用意しました。

お菓子にお茶を合わせることのように、気軽に日本酒を合わせて、美しい器を愛でながら美味しさや愉しさを見つけていただけたらと思います。




CASE1 : 純米酒ケーキ

日本酒のシロップをたっぷりしみこませた、ティラミスのような食感のケーキ。ブラン(左)若駒酒造「若駒 五百万石80」使用、ショコラ(右)新政酒造「亜麻猫」使用。




CASE2 : ガナッシュショコラオランジェ

清見オレンジの香りをうつしたvegan仕立てのガナッシュクリームとココアスポンジが層になったガナッシュケーキ。国産ブランデーを使用。




CASE3 : 焼き菓子

ココ(左上)、カイエンショコラ(右上)、豆味噌とメープル(左下)、シトロン(右下)。




CASE4 : veganヴァシュラングラッセ純米酒掛け

苺、バニラveganアイスクリーム、veganメレンゲのヴァシュラングラッセに純米酒掛け。