由良園

Interview

Sono Yura

Dec, 2019

Interview

小さな生命の輝きを濃密に描く


私は学生のときから、自分で作品をつくって作家として生きていきたいと思っていたので、雑貨屋さんの棚を一つ借りて、そこで展示をするということから始めました。その頃は自分の目線がかわいいもの、手に取りやすいもの、身近にあれば癒やされるものとかに向いていました。ものをつくり始めるきっかけとしては、気軽に使えて、日常使いができて、という方に憧れがあったんです。
その後、だんだんと手の込んだ作品をつくれるようになってくると、それを使いこなしてくれる人と出会うために、新たな場が必要になってきたんですね。自分の目線も自然とギャラリーに向くようになり、ギャラリーで展示するようになりました。




もともと普通高校で美術部に入って絵を描いていたので、大学はデザイン科と油絵科、そのどちらかを受験するという感じで、工芸という分野についてはあまり考えてなかったんです。絵を描くことが好きだったので油絵科かなと思って選んでいたんです。ところが絵を描いていくうちに、どこで絵を完成させるか、終わりがわからなくなってしまって。そういうものをやり続けているよりは、工芸の方であれば、ちゃんと形になるというか、終わりが見えるのかもしれないと思うようになって。それで受験するときに最初は絵画の方を受けていたのですが、途中から工芸の方に変えたんですね。デッサンとか基本的な画力というのは受験で勉強したんですけれども、工芸科に入ってからはとくに絵を描いたとか習ったとかいうことはないんです。


大学にはいろいろな素材がある中で、ガラスが面白くて、見ていて飽きなかったんですね。自分にとって、そういう素材は他になかったので、大学1年目からガラスを素材に選びました。そこから迷いなく、ガラスできました。溶けたガラスって、ずっと見ていられるんです。ガラスは水だと思います。水を見ていると、ガラスみたいだなと思うし…。単純な引き合わせなんですけれど、心からそう思うんです。


金箔をガラスで挟む


生地も私は自分で吹いているので、まず透明なガラスを吹きます。できあがる器のサイズを見越して、絵になるところに金箔を張っていきます。金箔と言っても、金澄(きんずみ)という箔の10倍の厚さのあるものを、熱で張り込んで擦っていくんです。
擦りつけて冷ましたものは、手で触っても爪でひっかいても取れないくらい焼き付いています。そこに絵を描いていきます。油性ペンで絵を描いて、そこに細い筆を使って、木工用ボンドで上からカバーというか、シールを貼った状態にしていきます。
そこから周りの余分な金を、サンドブラストという道具で吹き飛ばすと、ガラスに金の絵が残った状態になります。
水洗いすると油性ペンは落ちて、大まかな下絵ができるので、リューターというガラスを彫る道具で細かい模様を彫っていきます。ひたすらじっと彫り続ける感じで、3時間でも4時間でもじーっと。先端には見えないくらい細いダイヤモンドの刃がついているもので彫っています。



そうして絵の彫りが完成したら、500℃以上の小さな窯で温め直して、それを溶けたガラスで挟みます。その挟んだ瞬間に、きれいな明るい金色になって…。金箔もちょっとキュッと縮んだような状態になるんです。


金が瑞々しくて…。私はその時に、春の新芽が出たときのような、やわらかくてきれいなものだと思ったんですね。それで、そういう風景を描きたくて、金を削り取るというオリジナルの技法を考えました。


古代ローマ時代とかの物は別にして、現代ガラスの中でガラスに金を使うというときは、溶けたガラスに金を巻いて、それがきれいにひろがって散っていくとか、板ガラスの間に金を挟み込んであるとか、それまでそういうものしか私は見たことがなかったんですね。


私の考案した技法の名前は何ですか?と聞かれると、金が挟んであるので「ゴールドサンド」とお答えしているんですけれど、博物館とかにあるゴールドサンドイッチ技法の物とはつくり方が違うので、「厳密には違いますけれど」という言い方をしています。




ガラスで金を挟むということは、ゴールドサンドイッチ技法と一緒なんです。どこが違うかというと、ゴールドサンドイッチ技法による一番古い物は、熱をかけない状態で金を張っているんですね。絵というか切り紙のような、とても繊細な細い線のようなもので模様を張り込んで、そこにぴったり合ったガラスをはめて、それをゆっくり溶かすというやり方です。とても手間のかかる技法なので、大抵は箔を切って、それを置いて、そして挟み込むというやり方をするので、自由な紋様は描けません。その方法で私の図案みたいに細かったり、太かったりする線を絵のように構成するには、かなりの技術が必要になります。手垢もついてはいけないですし。私がこういう図案を彫り込んでいけるというのは、金を焼き付けてあるからできることなのです。



Roman, Byzantine and Early Medieval Glass: 10 Bce-700 Ce : Ernesto Wolf Collection / E. Marianne Stern


私は大学卒業後、富山ガラス造形研究所を経て、金沢卯建山工芸工房に入りました。金沢という町は金箔を生産しているので、1枚1枚売ってくれるんですね。そういう環境に居られたので、箔屋さんから金箔を買って試行錯誤することができました。とてももったいないんですけれど、金を削り飛ばして模様を残すと、やっぱり表情がきれいなので…。
金沢へ行っていなかったら、素材が手に入らなかったら、作品にはできなかったと思います。頭で考えてきれいだなと思っていても、実際にやってみるといろいろな難しいことがあるので。金沢だから出会えて、自分で考えられて、試行錯誤できて実現した技法です。


濃縮して映し出す小さな世界


ガラスとガラスの間に金が入ったとき、金色が自分が思っているゴールドよりも明るくて、やわらかい色で…その感動は大きいですね。
このきれいな表情が出る、ガラスとガラスの間に入った金に、何を彫ろうかなと思ったときに、“春の芽吹きのやわらかい新芽”というのが、すごく似ているなと思って、自然にモチーフはそこに決まりました。


小さい草とか新芽とかを見ると、つくりたくなる。かわいい葉っぱだな、お花だなって見ていると、蟻とかが横切るんです。じっとそこで絵を描いたりしていると、通り過ぎるものがいっぱいあって。


よくお客様から、この生き物は何をしているんですかとか、いい縁起の意味があるんですかとか、模様の意味みたいなことを聞かれるんですけれど。私は描きたいものを描くというより、そういうのもあるんですけれど、それよりは自分が体験してうわー!すごいきれい!と思ったり、気持ちが動いたことをモチーフにすることが多いです。


ガラスってまるで生き物みたいで。人間が全部調合して完璧にバランスを取っている素材なのに、ガラスが自然のものみたいに私には見えるんですね。そのときの気持ちと、植物や動物を見ているときの気持ちが、ちょっと似ている部分があって。それで、こういう自然をモチーフにしたものを、金箔で描こうと。自分が体験した空間というか、空気というか。


別々のモチーフを図鑑みたいにスケッチをして、それを組み合わせて絵をつくっていて、絵画というよりは文様だと思います。画面をつくるというよりは、どこで気持ちが収まるかなっていうところで絵を配置しているので、調和の構成という感じです。






素材の金箔は、張って擦っていく作業の中で、金箔が割れたりするんですね。割れたところを避けて、金箔がきちっときれいに張れているところに、メインのモチーフを決めて、そこに不自然にならないよう模様をつくっていきます。素材に左右されるというか、生地に左右されながら絵をつくっているので、こういう絵を描きたいと思っても、下絵通りに描けるわけではないんです。出来上がるまでどうなるかはわからないけれど、でも、植物が生き生きしているとか、そういうことは気をつけながらやっていますね。


この植物はここから葉が3枚出るとか、この植物は枝が相互に出るとか、たまに突然、蔓が伸びるとか、そういうことを普段からよく観察しています。模様として描いても、たとえばカラスノエンドウは蔓のところがないと、ただの木のように見えてしまって、模様が生きてこない。巻き蔓がシュシュッと出ていることで、その出方で模様だけど生きている植物みたいに見えるんです。ふだんからいっぱい見つけてスケッチしたり、頭の中に貯めておいたりして、それを再構成する形で模様はつくっています。


金箔だけなので、色でごまかさない分、形がハッキリしていないと生き物に見えなかったり、植物に見えなかったり。模様一つ一つの形というのが、すごく大事です。いろいろ考えてスケッチしていくうちに、自然に昔から日本にある植物をモチーフにすると、形が決まるというか、模様にしやすいことに気付きました。気に入ってるのは、スミレ、カラスノエンドウ、オオバコ、ペンペングサ…。昔からその辺にあるものですね。外来種の植物というのは、自然と描かなくなりました。







最初は虫が多かったですね。植物を観察して絵を描いていると、目の前を蟻が通ったり、蝶々や蜻蛉が横切ったりするんですね。自分がそこで体験したから模様に出てくる。虫とかを器に入れるのは、気持ち悪いと言われることもあるんですけれど、でもそれは自然を観察していたら普通のことなんです。


春の風景ばかり描いていたら、お客様に秋のものはないんですか?と聞かれて…。夏や冬はあまり思いつかなかったんですけれど、秋のモチーフはすごく空間が出るので、秋もつくるようになって。今のところは春と秋の器があります。


いちばん小さい器のこと


豆皿よりも小さい、人間が使えるサイズで、いちばん小さい器をつくりたかったんです。いちばん小さいから意味があるような…。お塩を入れたりとか、そのためだけに使える器というのがあってもいいなと思って。初めはもっと軽くてペラペラのものもつくってみましたが、大きな器をただ縮小するというより、ガラスの良さを厚みで出して、可能な限り小さくしてみました。




器の側面に模様が映り込んだり、縁に色が溜まるのもきれいだなと思っていて。お醤油を入れてもきれいですし、オリーブオイルとかを入れると、色がすごく変わるんです。模様にもオイルの色が映って、器の色自体も深い色になるので、入れるものによって色を反射して、いろんな表情を見せてくれると思います。家では、子どもが冷凍したブドウをこの皿に置いて食べています。ブドウを食べ終わった後に、紫色の果汁が残るんですけれど、それがまたきれいで…。
私はアロマオイルを調合するのにもよく使います。アロマオイルとか凝縮したものを入れるのにすごくいいんです。


ガラス工芸の世界は、アートの志向が強いせいか、もっと大きい物をつくれと言われる風潮があって。でも、私は小さいからかわいいとかではなくて、ガラスという素材を扱っていく中で、だんだん密度が上がっていって、小さな器をつくるようになりました。
この小さい器は、使いこなしてくれる方がいてくれないと、存在できない器だなとも思います。使うと世界がひろがるんですけれど。でも、無駄がなくて、アクセサリーみたいな大事さが生まれたなと。ガラスだからこの厚みも野暮ったくないし、他の素材ではなかなかこのサイズにはできないと思うので。素材のギュッと濃縮した感じ、ガラスの密度がある感じというのが、小さいから出るというか。そこを楽しんで使っていただけたら嬉しいですね。

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Introduction movie 由良園

Year:2021 time:3.56min movie by filament