山本亮平・平倉ゆき

Interview

Ryohei Yamamoto & Yuki Hirakura

Sep, 2020

Interview

白磁と染付の間で


ゆき
時々、絵付けが濃すぎたら消されるんですよ。釉掛けするときに、こっそり消されます。


亮平
最近はまったく消してないです。絵付けのだいたいの方針だけ、白磁くらい薄く描いてほしいとか、シミみたいな染付にしてほしいとかくらいしか言わなくなりました。


ゆき
消すためにじゃばーっと、釉掛けているときあります(笑)。




亮平
心情的には白磁が好きで…。染付も白磁のように目立たなくても何か感情を動かせる表現ができるんじゃないかと思っているんです。微妙な中に、感情を呼び覚ます表現の奥行きが結構あるんじゃないかなって。

人の目は、見ようと思ったら、とても繊細なものでもキャッチできると思うんです。散歩に出ても、空のグラデーションとか、限りなくいろんな色を感じ取っています。染付には、一瞬でわかるようなハッキリした絵もありますけれど、ほとんど白磁のようなものであっても、微かにでも描かれていればキャッチできると思っていて。染付を前面に出すだけじゃなくて引くというか、ギリギリ見えないところに向かうのも、一つの染付の可能性かなと。

濃いめに描いた場合は、だんだん慣れてくると、どのくらいの濃さや薄さで焼き上がるか、わかることもあるんですけれど、薄めに描いた場合、色が出るか出ないかは、コントロールできないところの表現だったりします。釉掛けでも消えるし、焼きでも消えるし。逆に出る場合もあったりとか、自分の力の外でということも多いんです。




ゆき
絵付けについては、私は自分の技術みたいなものは、見えなくてもかまわないという気持ちです。すごいな~だけで終わらない、っていう部分があった方がいい。自分で焼き上がったものを見て、すごくよく描けたなって思って終わるだけでは、何かが足りないというか…。


亮平
もちろん、きっちり描ける人なんで、描いたものを見て、この線がいいとか、塗りがいいとかは僕もあるんです。でも、窯から上がって、あれもこれも描いていたのに、場合によってはほとんど見えないくらいになっていて。見えるようで見えなかったりすると、この人が描いたという描いた人の手業じゃなく、ここで起きている現象になっているんですね、絵が。現象になっている絵っていうのは、見飽きないというか、いつまでも見ていられるというか。何らかの痕跡はあるのに、よくわからないから何だろうって…。







ゆき
本を読んで、ああ面白かったって終わるんじゃなくて、何回も思い返しているみたいな感じ。何でだろうって考える部分がほしいというか。そうじゃないと、ちょっと自分が面白くない。

まあ、たくさん描いたのに、焼き上がったら痕跡だけになっていたりするので、焼く前に写真を撮って、描いたっていう証拠を残してみたりすることはあります(笑)。でも、そのときだけの満足で、それを見返すっていうこともないですからね。焼きものは使う道具だから、絵画とかとは別物。使うのか飾るのかっていうせめぎ合いの部分も好きなんですけれど、使うということを省いては我々考えられないから。そうなると、絵っていうのは、どの程度なのかっていうのは、いつも悩んでいます。それが出てる、悩みが出てるからいいんじゃないですか。これでいい、できた!って思ったら、途端に面白くないものになっちゃうなと思います。


亮平
展覧会に在廊して、お客さんと話していると、僕の目には見えても、年を重ねてそこまで見えなくなっている人もいらっしゃって。ここに何となく花があるのはわかるけれど、蝶々はわからないって言われて、ここに見えませんかねみたいな。そうすると、そんな気がしてくるって言われるんですね。そうなったら、蝶々どこにいたっけって、いつまでも見てられるって、わからないから。わからないって言っても、存在はしているんです。きっちり描いているから、見えなくても、ここに蝶々がいるとか、そうやって愉しむ余地がある。


ゆき
薪窯だから、こうした表現ができるのかもね。


亮平
肌の変化もあって、全部馴染むから。これがガス窯だと絵がそのまま出ちゃう。


薪窯はやっぱりわからない…自分でコントロールできないところに魅力が生まれますね。今はもう少し白磁に近づこうという気持ちになっているけれど。


ゆき
でも、絵を描くのは、お客さんのことも考えてはいるよね。


亮平
そうかもしれない。見る人の気持ちとか。




ゆき
何か、ちょっとした線や色で見る人の気持ちが動くときもあるからね。私の中では、絵を描くときに結構迷ってはいて…。焼き上がりで、どの部分が目に入ってくるかというのをとにかく考えています。それと、植物として成り立っていないと気になって描けません。茎や葉、花の向きとか、自然の法則があるじゃないですか。写実的に描くわけではないですが、そういう部分は気にしています。


亮平
そこは結構、気にするよね。不自然な線は気持ち悪くなっちゃうとかは、すごい本能的だなと。

うちの染付は、素焼きをしない湿った生生地に描くので呉須が揺らぐし、釉の生掛けは全体に馴染むので、このやり方も、土窯の自然性と合っているように感じています。