鎌田奈穂

Interview

Naho Kamada

Feb, 2019

Interview

さらっとした軽快さに凜とした佇まい、純銀の器



以前、お酒の好きな友人に、どんな酒器がほしいか、聞いたことがあります。いろんな形がほしい、いろんなのみ方をしたい、と言われました。私は最初、燗酒を美味しくのめるような酒器がいいのかなと思っていたので、熱を通す銀は燗向きではなく、酒器をつくることに迷いがあったのです。しかし、友人の話を聞いて、冷酒を愉しむなら銀器もいいかなと思うようになってつくり始めました。


冷たい物は冷たく、そうかと言って冷たくなり過ぎず、ちょっと落ち着いた温度でいただけたりします。お酒の温度だけでなく、周りの空気とか手の温度も器の中に伝わるからです。それで、酒器を持った瞬間に冷たい!という感じにはならないのです。冷酒を注げば最初はひんやり、次第に空気の温度や手の温度とよく馴染んでいくところなども銀は良いなあと思います。



純銀は、食との相性も良い素材です。においがなく、口に運んだときに食べ物の味や香りを邪魔しないという特長があります。また、純銀はアレルギーを起こしにくく、抗菌作用もあります。そして、ものづくりにおいても遊べる素材であって、さまざまな表現の仕方ができます。私は銀を叩いて模様をつけたり、細工をつけたり、細かな作業の多い作品をつくっていますけれど、そうしたことにも向いている素材です。いろいろな表現の仕方ができるのは面白いですし、いまはまだ自分の知らない表現が、この先きっと出てくると思っています。




酒杯(打製)
スッとしたシンプルな物をつくろうとしている中で、お酒を注いだときに何か変化があるのも楽しいのかなと思いついてつくった物です。思い切ってポコポコと打ってみたら、なかなか面白い表情になりました。



トルコ酒杯
トルコグラスを見たときに、銀でもつくれるのではないかと思って試行錯誤したのが始まりです。私の中では遊び心の多いタイプの物。この酒盃をつくったことで”模様をつける”という表現を知りました。ここから派生して、いろいろな作品の模様つけを愉しんでいて、そのきっかけとなった酒杯です。



酒杯(鎹)
古い物が好きで、古い器の繕いに見かけることのある鎹(かすがい)がきっかけになってつくっています。この鎹の魅力というのは、アクセサリーではないですけれど、それがちょっとキュッとあるだけで、シンプルな器でありながら全然違う雰囲気の物になるという愉しさでしょうか。



デルフト酒杯
シンプルな形が好きでつくっている物です。シンプルな中にもさり気なくですが、少しお尻のところを立ち上げて、見た目に落ち着いた佇まいにしています。また、口当たりがいいように、口縁にほんの少しだけカーブをつけています。




12年前の弟子明けのとき、お師匠さんご夫妻から「これからどんな作品をつくっていきたいんだい?」と聞かれ、「砂のような雰囲気をもった物をつくりたいです」と答えました。「それをずっと続けていきなさい」とおっしゃっていただけて、以来そのことはいつも頭の中にあります。 砂のような…。私の作品は、おそらく銀の表情がちょっとくすんだ、細かいテクスチャーに見えると思います。そういう繊細な表情でありながら、ちゃんとカチッとした仕上がりにはしたいなと思ってつくっています。 お師匠さんのつくられている物は美しい重みがあり、私には”泥”のような、すごく粘り気のある、力強い、深い物に感じられていて、そのようにたとえるなら私のつくる物は”砂”のようだと思ったんです。少し軽快というか、ちょっと軽い印象が自分らしいのかなと。







もともと10代の頃から、銀製の身につける物や古い物などは好きでした。博物館が大好きで、そこで見た昔の装身具は、銀の繊細さや色合いが魅力的で、ただただ好きだったのだと思います。紀元前につくられたような古い物、職人さんが王室のためにつくった物などを見ていると、何の邪険もない真っ直ぐな職人仕事というのは、どう形がボコボコになろうとも残っていて。時間が経って歪んでいても、凜としていて、その美しさにとても惹かれました。昔の物はなぜか装飾が入っていてもシンプルな物に見えるというか、何かがそぎ落とされているように見えます。その中にささやかでも必要なものを感じながら、今できる物づくりをしています。


お手入れについて


ずっと使わずに放置していると、どうしても黒ずんでしまうので、使わないときは密封性のある袋に入れておくといいです。黒くなってしまったら、重曹を少し水に湿らせて磨いたり、クリームクレンザーで磨いたりして、黒ずみを取ってください。日常使いでは、普通の食器と同じように、スポンジで洗っていただくのがいいと思います。拭かなくても水跡はそれほど気にならないのですが、すぐに拭いた方がいいかなと思います。毎日使うとお手入れもいらないですし、黒ずんだりもしません。ちょっとした小さな小さな傷が積み重なって、それがとても面白い味にもなるので、惜しげ無く日々に使ってほしいです。

Movies

movie 鎌田奈穂

year:2019 time:2.48min produced by filament movie