20年近く前から度々、お椀を小さくした形が好きで、木地をつくってもらっています。器として、お椀の形って安心できるというか。微妙に形を変えつつですけれど、持ちやすいし、安定もしているし、何かスッと入ってきますよね。
これは具体的なイメージは無くて、塗りぼかしがしたいと思ってつくった作品です。一般的には「ぼかし塗り」と言われる技法ですけれど、しっくりこないので、タイトルには「彩漆 さいしつ」という自分で考えた言葉を付けています。いろいろな色の漆を使っているから彩りの漆ですね。
全て塗りぼかしでつくっていて、同一面にオレンジ色の朱、黄色、黒色を塗って、その間をぼかしていきます。小刻みに刷毛を震わせて、それを撫でて、ということを地道にやってぼかします。そこまでならやっている人はいるんですけれど、それをさらに研ぎ出していって、こういう艶のある仕上がりにするというのは、難しいのでやらなくなっているんですね。
僕の場合は、今そういうことをやっている人はいないよね、というのを聞いたりすると、俄然やりたくなってくるんです(笑)。なかなかできないところが燃えるんですね。漆のものは技法書があまりなくて、僕自身も言葉で説明するのにとても苦労するから、言葉とか文章になりにくいんでしょうね。研ぎ出し加減はここまで、というのもないから、自分で研究するしかなくて。でも、そういうことをしていくのは面白いんですね。仕上がったときに、きれいな物に出会えますから。この酒器も、研ぎ破っているところがあるんです。そこが夕日の水平線上に浮かぶ船みたいに見えて、何かいいなと思っています。
色は自分で調合しています。市販品の色は顔料が足りていなかったり深みがなかったりするので。色によって粘度も違うんですよ。混じり合いにくいものをうまく混じり合わせるにはテクニックが必要で、その微調整がかなり微妙なんです。なので、色は難しいんですね。この作品は、以前につくったもので、最近はあまりやっていなかったんですけれど、朱色は華やかになりますね。また彩漆もやってみようと思います。