これは白蝶貝を使っています。螺鈿は、赤っぽく見えたり青っぽく見えたり、角度によっていろんな見え方があるんですけれど、この白蝶貝を螺鈿に使うと、少しグレーがかるんですね。ブルーだったらブルーグレーみたいな。そこがなかなか良くて好きなんです。
白蝶貝は、小さなパーツをつくって、その組み合わせで、一枚一枚貼っていくんです。パーツはきれいな丸ではなくて、あえてちょっといびつな丸にしています。そうすると、かたい雰囲気にならないというか、緊張しない雰囲気になるんですね。
亀は縁起物ですから、それを文様化して貼っています。幾何学模様ですけれど、この亀甲の中の文様を一つ一つ変えています。単純なパターンではないところの雰囲気も出したかったですし、この器を手にされた方にとって、見どころがいろいろあった方が愉しんでいただけるかなと思ったからです。
以前、自分の盃を持参して外へ食事に行っていた頃は、お酒が入るところに蒔絵を施した盃だったんですね。でも、それって周りの人にはどう見えているんだろうと思って。器の側面とかに蒔絵があると、使っている本人には見えにくいけれど、周りの人には見えますよね。そういう盃を持参したときには、声をかけられたりするんです。それ何ですか?って。家で飾っているときに、真上からではなく横側から見ることも多いですし。これは、そういう視点で、側面に見えるように貝を貼ってつくりました。
僕は「会場芸術」と言われるような目立つものは好みではないんです。地味なんだけれども、何か光るところがある、というのが僕のテーマです。
螺鈿も、美術館に入っているようなギラギラとしたゴテゴテな感じのものは、すごいなって言葉がみつからないくらいになります。そういうとき、もっと抑えた感じに、品良くするにはどうしたらいいんだろうって思うんです。漆の黒ってすごく奥行きあって、品があると僕は思っていて。そこに貝をちょっと入れただけでは物足りないけれど、いいバランスを探っていく。というのが、蒔絵にしても螺鈿にしても僕の基本的なテーマかもしれないですね。
この器に黒の部分を多く取っているということも、無意識にしていることですけれど、そういうところの表現なのかなと思います。