樋渡 賢 

Interview

Ken Hiwatashi

Jul, 2021

Interview


蒔絵手帖 2

「 日の丸蒔絵 」


すごくシンプルな器で、丸い図案は「日の丸」です。
人によっては月と言う人もいますけれど、太陽ですね。
置き平目という蒔絵の技法を用いて、金の粒粒を一つ一つ置いて、表情をつけています。
輪郭を括ると、繊細に見えますよね。ちょっとギザギザして、コンパスで描いたような真円ではない。そこもまた雰囲気が出てきます。

僕は内側に蒔絵をするんですけれど、筆で内側に描いていくって、なかなか難しいんです。とくにこの立ち上がっているところに描くのは。でも、ここにあると実際にお酒を入れたときに、濡れているところと濡れていないところの境目のきれいさというのも出てきますから。自分でもとても気に入っている盃です。



口づくりはとにかく薄くして、外側と内側の境目がわからないくらいです。だからといってピンピンに薄すぎては、それはそれでちょっと危ないですし、ある程度の丸みというのはあります。

内側は黒色で、外側は(うるみ)という焦げ茶色です。真上から見ても、黒と潤と金(蒔絵)という対比がわかるような形状です。潤は金とも合うし、黒にも合うし、この黒・潤・金の組み合わせはとても好きで、盃によく用いています。

漆のものは、呂色仕上げという艶々な仕上げにすると、実は滑りにくいんです。素手で持つと、吸い付くような感じになるんですね。だから、おそるおそる触っても、ちゃんと手に吸い付いてくれるから安全なんです。手袋とかして持つと、滑っちゃうんですけどね。



お酒を注いで注がれてって、今あんまりないですよね。
コロナ禍ではむずかしいけれど、本当は注いで注がれてがいいなと思うんです。
小さい盃は、ちびちび飲むから結構長く飲んでいられるし、
盃が大きいと、お酒が入ったまま割と放ってたりするじゃないですか。
小さい方が美味しいうちにすぐなくなって、相手もそれに気付いて…そういうのって楽しいですよね。
コミュニケーションもとれて。だから、あえてというか、小さいです。

ただ、小さいと作業はしにくいんです。それでも意味を持ってやるというか、小さいなら小さいなりの神経を遣って、ここにも気を遣っているよ、というところが出てきますから。そういうことも含めて、小さい物には魅力がありますね。




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