柏瀬幸裕

Interview

Yukihiro Kashiwase

Jan, 2019

Interview


若駒酒造について


関東平野らしい田園風景が広がる、栃木県小山市に若駒酒造はあります。周辺は古くは「美田(みた)」と呼ばれた米の名産地です。創業は1860年、江戸末期から160年続く蔵です。初代から5代までは近江の出身で、5代目がここに家を構え、6代目の僕は生まれも育ちも小山です。

僕が中学生の頃、酒造りの季節になると蔵には越後杜氏が4~5人集まって賑やかでした。その後、杜氏の高齢化が進み、従業員で下野杜氏を立ち上げる勉強会を開くなど、蔵の未来を模索する日々が続きました。



僕は次男で、蔵を継ぐことはまったく考えていませんでした。高校はサッカーで入って、大学に進学。その学生時代に、新橋の居酒屋さんでアルバイトをしまして、そこで美味しい酒というのを知ったんです。それまでアルコールはどちらかというと苦手で、実家のお酒は美味しくないと思っていました。ところが、アルバイト先の冷蔵庫に並んでいるお酒は美味しい。それらは“純米生原酒”だったんですね。



柏瀬幸裕 35歳


大学卒業後は3年間、「風の森」を醸す奈良の油長酒造で修行しました。1年目からしっかりやらせてもらえました。修行を通して、感覚やセンスが大事なことも学びました。ですから、データで酒を造ることはできるんですけれど、データでは決めません。器具を使う場合も、必ず指先の感覚を大事にしますし、お酒をしぼるタイミングにしても、決めるのはベロメータ、自分の舌です。




今年で実家の蔵に入って10年目になります。当時は蔵を継ぐというより、どうしたら生き残れるかというような状況でした。そんな中で修行から戻って立ち上げたブランドが「若駒」シリーズです。会社名と同じ銘柄名です。 僕自身がアルコールに弱くてお酒をのめなかったからこそ、どういうものが美味しくてのみやすいか。あまりお酒が得意ではない人に対してのアプローチからスタートしました。まずは自分が美味しいと思えるお酒を造ろうと思ったんです。


無濾過、原酒で









「若駒」は“無濾過、原酒”が主力で、“ジューシーな旨味”が特長の純米酒です。初期は甘味、それと旨味にこだわりすぎて、ちょっとくどいくらいのお酒だったんですけれど、今はそこにきれいなキレも加わってきました。 この10年の歩みの中で、たぶん僕がのめるようになってきたというのもあるんですけれど(笑)、ビギナーはもちろん、玄人も好むお酒になってきたかなと。特に女性に評判がよくて、「華やか」「ジューシー」「果物みたい」と表現されますね。






若駒はお米違いでシリーズになっていまして、全体的に華やかな果実感、というのも特長です。たとえば「愛山 90」。愛山は酒造好適米の中でも特に高級なお米なんですけれど、それをあえて10%しか磨きません。お米由来の味わいをしっかり出して、しかもきれいに造ります。お米の雑味を出さずに、ジューシーな部分だけを引き出して、酸で切るというお酒です。

そして「五百万石 80」。バナナやパイナップルにたとえられる果実感ときれいな酸が特長で、どちらかというとトロピカルチックな味わいです。それから「美山錦 70」。バナナや黄桃っぽいジューシーさがあって、甘味がしっかりしています。フルーティー&ジューシーなタイプです。 他にもさまざまなお米を使用していますけれど、基本的に産地から仕入れています。愛山は兵庫、五百万石は新潟、美山錦は長野です。一般米では栃木県産のあさひの夢ととちぎの星を、なるべく地元小山産を指定して使っています。

そして山田錦については、あえて使わないことにしています。隙間産業といいますか、僕の考えですけれど、できるだけよそのやらないことに取り組んでいます。


低精白の蔵に


低精白とは精米歩合が低いこと、つまり、磨きが少ないこと。米粒は見るからに大きい状態です。うちではほとんどのお米を70、80、90%という精米歩合で使っています。食べるお米の精米歩合が92とか93%なので、90%はそれに匹敵しますね。

たとえば50%で仕込んだものと90%のものを比べてみたときに、50%の方が白くて、90%の方は黒っぽい、黄色いお酒になるんですね。醪の状態からそうなので、低精白を黒い米と呼んだりもします。

お酒は熟成すると黄色くなったりするので「熟成してるの?」「去年の?」とか言われたりもするんですけれど、今年のロットでしぼったままです。本来、お酒は黄色みがかっているもので、うちはさらに色味が強いんです。これもうちの個性、低精白の良さかなと思っています。

低精白で造るお酒は、雑味が強いというイメージがあるのか、よその蔵ではあまりやっていないんですね。だからこそ、どれだけお米の味わいを残しながらきれいに造るか、ということに僕は取り組んできたんです。

その特徴を生かして、ジューシーな旨味を酸で切る、のみやすい美味しいお酒に仕上げています。






当初、低精白について祖父は猛反対でした。それでも始めてみたところ、やはり結果は難しくて。よその蔵がやらないわけもよくわかりましたけれど、先輩に相談してアドバイスをもらったり、あとは反骨精神で「あえてやろう」と。

2年目に70%、3年目に80%、もっと味を出したいなと思って続けてきました。今、そのことがこの蔵の武器というか、宝になっています。やはり酒造りは悩む方が楽しいんですね。難しいからこそやりがいがあって楽しい。

今年も90%を1アイテム増やしています。この先、あと1アイテム増やして、90%の3部作にしようと思っています。80%も1アイテム増やして3部作にして、「90、80の蔵」にしたいですね。50%の純米大吟醸クラスも造っていますけれど、「低精白の蔵」としてもっとやっていきたいと思っています。




ラベルとラインナップ


酒瓶のラベルは、果物の色で表現していることが多いですね。バナナティックな香りのするお酒は、バナナ色のラベルという具合です。愛山については、ピンク色のラベルで、図案をよく見ると馬の目が♥︎をしています。夏酒は、馬がサングラスをかけています。ラベルの企画は妻が担当していて、そういった遊び心も少ししのばせていますが、若駒シリーズに使用している馬の図案は、昔から蔵に伝わる看板に描かれていたものです。子どもの頃からずっと見てきたものだから大事に残しています。

ラインナップについては、多彩に取り揃えていると自負しています。色々なシーンでのんでもらいたいから、「乾杯から〆まで若駒でいける」という考えで造っています。前菜に、サラダに、肉料理、魚料理に、デザートに。それぞれ違う味わいに合わせられる、多彩なラインナップです。

多彩に揃う分、若駒のこれは好きだけれどこれは好みでない、というのは正直あると思うんです。でも、逆に若駒を全部嫌いとはならず、どれかしら必ず好みにヒットするものを見つけてもらえるのではないかと…。

僕は自分が造っているお酒なので全部好きなんですけれど、どれが好きかというのはなるべく答えないようにしていて。今日の気分とか気温とか、そういう状況でも変わるので、その時々で選んでもらえたらいいなと思っています。




楽しく造ること


うちの酒造りは、10月からスタートして、しぼり終わるのはだいたい4月初めという周期です。毎回最初に出荷となる「無加圧取り」というシリーズが、11月末から4月頃まであります。これはおりがらみ、微発泡のお酒です。

それが終わると夏酒の季節、「夏駒(ナツコマ)」「馬夏ンス(バカンス)」というさわやかにのめるタイプのお酒になります。そして、夏を過ぎるとひやおろし。当蔵のベースそのままに火入れしたもので、コクがあって、燗につけても美味しいタイプが出てきます。

また、今年はちょっと新しい取り組みとして、世間一般では辛口として表現されるお酒を造りました。日本酒度はプラス13、辛口という表現をしたくないために、キレがいいということで「キレコマ」と名付けています。

トータルでジューシーな、どちらかというと甘味のあるお酒を造り続けている蔵としては、日本酒度がキレているお酒を造るのは、ちょっと難しいところもあるのですけれど、しっかりキレて、すっきりとしたタイプに仕上がりました。ある意味、若駒らしくない逆の良さがあります。

こういうお酒も造れる、ということを知ってほしいですし、僕もまだ35歳なので、今後20年30年と続けていく中で、常に何か新しいことに取り組んでいこうと思っています。その第一陣としてのキレコマです。

そして、いつか次の世代に受け継げるような蔵にしていくこと。それも僕にとって大きなテーマです。だからこそ、楽しんで造りたい。酒造りって正直、夜中に何度も起きなきゃいけない、朝が早い、冷たい、寒い、そういう冬場にやる作業なんですけれど、でも笑顔でいたい。

楽しく造って、お酒をのむときもやっぱり楽しくあってほしい、笑いが起こってほしいと思っているので。みんなが幸せになれるようなお酒を造って、訪ねてくれる方にもそういう楽しい蔵だからこういうお酒が出来るんだなって思ってもらえるような蔵でありたいです。そういう酒を造ろうと、日々思い続けています。



Movies

Introduction movie 若駒酒造 柏瀬幸裕

Year:2019 time:3:31min movie by filament